2012-01-01から1年間の記事一覧

001:クレヨン

夏の匂いがする。 君は黄色のクレヨンを持って。 画用紙一杯の向日葵を描く。 君の横顔は微かに笑っていて。 僕の方など見もしない。僕は水色のクレヨンを持って。 君の向日葵に青空を描く。 雲一つ無く。 言葉一つ無く。 君は僕など見ない。 見ているのは真…

002:階段

眩暈。クラリ。ヒラリ。フワリ。 サングラス越しに見える、ギリギリまで短くしたスカート。 僕の手を取って。 ヒラリ、揺らぐ世界。 猫みたいな着地。 14段の階段の、その先に見える世界。

003:荒野

誰もが皆、歩いて行く道程。寂しくてどうしようもない時は、電話をして。

004:マルボロ

閉め切った真夏の部屋。たゆたう倦怠。無造作に伸びた真っ黒な髪。皺の入ったシャツ。 指にはマルボロ(赤)。 この胸を刺す衝動に、わたしはその袂に唇を寄せた。 ニコチンと、コーラみたいな夏の匂い。「邪魔だよ、ジョシコーセー。」 「だって堪らないん…

005:釣りをするひと

巧妙な罠を張って、貴方が引っ掛かるのを待っているのだけれど。 多分、貴方は仕掛に気付きもしないで 堂々と擦り抜けていくのでしょう。 『だって、私から云ったら、私の負けじゃない。』

006:ポラロイドカメラ

ぱしゃり。30秒。 現れた私の笑顔はまだ少しひきつっている。(Sometimes only pictures will remember our good old days.)

009:かみなり

遠雷の音がします。嵐が来ます。 机の下で毛布を被って、じっとしていればその内過ぎるでしょう。 あなたの大きな手なんて要りません。

010:トランキライザー(抗鬱剤、精神安定剤)

貴方のトランキライザーなんて、全く御免だし、 呑まれてしまうのなんて、一瞬たりともお断りだ。でも、これからも僕は、貴方からの電話に出てしまう。 型落ちの携帯電話のボタンをなぞる親指。これが、『こいごころ』というものなのならば、 全くこの不公平…

011:柔らかい殻

ひとつ、我が儘を云っても良いかな。 君を包むその殻に瑕を付けたいんだ。 その柔らかい頬にさわって、静かに、静かに。

013:深夜番組

・・・何だろう、何かを一生懸命売っている声。 ああ、深夜のTVショッピングか。私の身体を抱き締める手が熱を帯びている。 規則正しい吐息。ああ、TV点けたままだったのだな。 明日は日曜日だっけ。 身体が重い。 ・・・・そんなにしたっけ。眠い。急速に冷…

096:溺れる魚

大学の夏学期試験も終わりかけの金曜日、11号館の階段の下で、 めずらしい人を見かけた。(二週間振りだ。)ふと、こちらを見た彼は、気まずそうな様子も見せずに、手に持ったハイライトを再び口に付けた。 しなやかな指先。「・・・煙草、吸うんだ。」 「・…