004:マルボロ

閉め切った真夏の部屋。たゆたう倦怠。

無造作に伸びた真っ黒な髪。皺の入ったシャツ。
指にはマルボロ(赤)。
この胸を刺す衝動に、わたしはその袂に唇を寄せた。
ニコチンと、コーラみたいな夏の匂い。

「邪魔だよ、ジョシコーセー。」
「だって堪らないんだもの。」
「僕は煙草をふかしたいんですけどね。」
「あたしはここが良いんだもの。」
「そんなものかねえ・・・」

ふーっと白煙が揚がる。
くたくたのジャケットの男と、制服の少女。
なかなか退廃的な絵で良いと思うのだけど、
そう云うと、線の奇麗な手がわたしの髪を梳いた。

「なあ、俺はさ、」
「云わないでいい。解ってるから。」
「じゃあ、なんでお前は、」
「いいの。あたしがこうしてたいの。」

衣擦れの音。ニコチンの匂いが強くなった。
片手にマルボロ。片手でわたしの髪を梳く。
わたしはそれだけで良いのだ。
(むしろこれだけを望んでいる。)
彼(あ)の手がそれより下に降りてくることはない。
呼吸の間隔が短くなる。
ふたりの心拍数は余りに違う。

屈折された夏の日差しは、鈍い黄金色をしている。
わたしは、ゆっくりと目を眇める。

わたしは、彼(あ)の唇を、望んでいるのだろうか。