2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

020:合わせ鏡

洗面所の前で、小さな手鏡を、大きな鏡に向けると、背中の痕が映る。父も母も、私のことが嫌いで仕方なかったらしい。蚯蚓腫れのような、雷の閃光のような、罪の残骸が明示される。 私は小さな手の平を合わせ、ずっと祈っている。もう、誰も父母を傷つけませ…

019:ナンバリング(番号を振ること)

警察に捕まって、牢屋で首筋に番号を入れられた。―― 128番。 5年間、愛しているひとには会えず、128番の刺青の痕だけを手で追いながら、強制労働に耐え抜いた。 牢屋から解放され、僕は今でも無実の罪だと思っているけれど、128番の刺青は少し薄くなっただけ…

080:ベルリンの壁

隣の部屋に住むその人は、いつもベランダで煙草を吸っている。 ベルリンの壁が崩壊した日(1989年11月10日)のニュースをTVの前で食い入るように見詰めていたと言うその人に対して、私はぼんやりと覚えている(もしくは、その後にみた映像でその時リアルタイ…